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先端研究のウラに高純度あり その5 -磁気を可視化する、磁気光学薄膜-

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先端研究のウラに高純度あり その5 -磁気を可視化する、磁気光学薄膜-

時には私たちの生活が変わってしまうような最先端の研究のウラに、高純度化学研究所の存在があります。今回は「磁気光学薄膜」のご紹介と、この材料に携わる当社技術者のお話をお送りします。

磁気光学イメージングとは

磁気光学効果とは、偏光した光を磁性光学材料に入射すると、透過した光の偏光面が回転する現象であり、磁気光学イメージングは、リアルタイムで磁場および電流が作る磁場を可視化することができます。そのため、磁性体の評価だけでなく、金属材料の深傷、電気回路や電子デバイスの評価など、様々な分野において、新しい非破壊検査技術として期待されています。

Bi置換希土類鉄ガーネット(R3-xBixFe5O12)とは

Bi置換希土類鉄ガーネットは、磁気光学効果を持つ物質の一つであり、鉄イオンを含む四面体、八面体サイトと、希土類イオンを含む十二面体からなっています。選択する希土類イオンの種類によって、磁気モーメントの方向や大きさが異なっています。そのため、希土類イオンの量を適切に選ぶことによって、角運動量が釣り合って消失する組成を得ることができます。角運動量が小さくなることで、磁気反転が高速化されるため、高速で書き換え可能となるメリットがあります。またBi置換希土類鉄ガーネットは、可視から近赤外領域(360nm~1000nm)で優れた磁気光学特性を示すことが知られています。

図1. 佐々木教真:「MOD法によって作製した鉄酸化物薄膜の磁気異方性制御に関する研究」

弊社は長岡技術科学大学 石橋先生の研究室と長らく共同研究を進めています。今回はBi置換希土類鉄ガーネット(Nd0.5Bi2.5Fe4GaO12)を使用した磁気光学イメージングについて、ご紹介します。

先生の研究紹介

Nd0.5Bi2.5Fe4GaO12は可視光領域で半透明な材料であり、光の偏光面が回転する現象であるファラデー効果を利用できるため、本研究では、MOD法(金属有機化合物分解法)で作製された磁性ガーネット薄膜材料を使用しています。

MOD法は、金属の有機化合物を主成分とする溶液を塗布して液膜化し、乾燥・焼成処理を施すことで酸化物薄膜を形成する手法であり、ディップコート法やスピンコート法など、大気中で簡単に塗布することが可能な成膜技術です。組成・成分などのカスタマイズがし易いことから、今回のような磁性ガーネット材料(Nd0.5Bi2.5Fe4GaO12)のような複合酸化物の合成に用いられています。

最近では、Bi置換希土類鉄ガーネット(Nd0.5Bi2.5Fe4GaO12)を使用したMO-D2NN(磁気光学回折型ディープニューラルネットワーク)に関する研究を進められています。ディープニューラルネットワークは、AIの一種であり、コンピュータが人間の脳の仕組みを参考にし、データの分類や認識の基準をコンピュータが自ら見つけ出すことができる技術です。その中で磁気光学(MO)効果を利用して書き換え可能となる技術がMO-D2NN(磁気光学回折型ディープニューラルネットワーク)と言われています。

図2. MO-D2NNの模式図。入力光の偏光は変調され、光は隠れ層に磁気記録された磁区パターンの磁気光学効果によって回折されます。出力信号は偏光イメージセンサーによって測定されます。

そこで、磁性ガーネット材料(Nd0.5Bi2.5Fe4GaO12)を使用し、低消費電力かつ光速度でAIの計算を実現するMO-D2NNを開発し、AIの計算に伴う膨大な消費電力の増大の解決を目指しています。以上より、可視光領域で動作する書き換え可能なD2NNを実現することで、イメージングデバイスへの搭載を目指しています。

 

「Bi, Ga 置換 Eu ガーネットの室温における磁化及び角運動量補償組成」
朝野 航a、Md Abdullah Al Masud a、西 敬生b、大島 大輝c、加藤 剛志c、李 基鎮d
河原 正美e、Fatima Zahra Chafi a、西川 雅美a、石橋 隆幸a
a長岡技術科学大学、 b神戸市立工業高等専門学校、c名古屋大学、d西江大学校、e高純度化学研究所

 

「Magneto-optical diffractive deep neural network」
TAKUMI FUJITA1, HOTAKA SAKAGUCHI1, JIAN ZHANG1, HIROFUMI NONAKA2,
SATOSHI SUMI3, HIROYUKI AWANO3, TAKAYUKI ISHIBASHI1
1Department of Materials Science and Technology, Nagaoka University of Technology, 1603-1,
Kamitomioka, Nagaoka, Niigata 940-2188, Japan
2Department of Business Administration, Aichi Institute of Technology, 1247 Yachigusa, Yakusa, Toyota,
Aichi 470-0392, Japan
3Toyota Technological Institute, Nagoya, 468-8511, Japan
論文「Magneto-optical diffractive deep neural network」

 

技術担当者より一言

この共同研究は、学生実験への協力から始まりました。昔はビスマス置換磁気ガーネットはLPEのような特殊な方法でないと生成できなかったのですが、MOD法という簡便な手法で学生さんたちが作成に成功しました。その特性が良く、本格的に共同研究をはじめ、特許を取得しました。その後、その研究室からは様々な研究成果を出し続けておりますが、磁気光学研究の時間軸を少しすすめられたものと思います。
本技術、材料に関するお問い合わせがありましたら、ぜひお寄せください。(技術:河原正美)


石橋先生より一言

MOD法は、学生実験でも行っている簡単な方法ですが、ビスマス置換磁性ガーネット膜の作製に関しては、最も優れた方法であると思います。私たちは、MOD法で作製された高品質なビスマス置換磁性ガーネット膜を使って、磁気光学イメージングや磁気光学回折型ニューラルネットワークデバイスの研究開発に取り組んでいます。

光・磁性材料工学研究室|長岡技術科学大学

 

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CSD材料

CSD材料|株式会社高純度化学研究所 (kojundo.co.jp)

 

※使用する図につきましては、権利等の確認済みです。

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