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SOFCの低温動作に期待! 酸化物イオン伝導体 Ba7Nb4MoO20

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SOFCの低温動作に期待! 酸化物イオン伝導体 Ba7Nb4MoO20
時には私たちの生活が変わってしまうような最先端の研究のウラに、高純度化学研究所の存在があります。
先端研究のウラに高純度あり その5 回目は「あたらしい酸化物イオン伝導体」のご紹介と、この材料合成に携わる当社技術者のお話をお送りします。

SOFCと酸化物イオン伝導体

水素ガスなどの燃料から電気を作り出す燃料電池(=Fuel Cell:FC)は発電時のCO2排出が無く環境に優しい発電方式として注目されています。自動車や家庭用燃料電池への応用の他、近年はドローンへの搭載を目指した研究・開発も行われています。この内、固体酸化物形燃料電池(=Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)はセラミックス系の部材で構成され高温動作が可能であり、発電効率が高いという特徴があります。図1はSOFCの動作原理を模式的に示したものです。ここで、重要な部材の一つに酸化物イオン伝導性を有する固体電解質があります。

図1 SOFC動作原理の模式図

高いイオン伝導度は特定の結晶構造においてのみ発現します。代表例はイットリア安定ジルコニアYSZやガドリニアドープセリアGDCなどの蛍石型構造やLaGaO3固溶体などのペロブスカイト型構造です。そのため、高い酸化物イオン伝導度を示す新しい結晶構造グループの発見は重要です。

世界最高クラスの酸化物イオン伝導体Ba7Nb4MoO20系材料

近年、六方ペロブスカイト関連酸化物で高い酸化物イオン伝導体やプロトン伝導体の発見が報告されています(表1)。共通する特徴として本質的な結晶構造欠陥に起因したイオン伝導があります。

表1

※スクロールしてご覧いただけます。

物質名 伝導種 伝導度 (@500℃)
Ba3MoNbO8.5[1] 酸化物イオン 0.6×10-3 S/cm
Ba7Nb4MoO20[2] 酸化物イオン 1.7×10-3 S/cm
Ba7Nb3.9Mo1.1O20.05[3] 酸化物イオン 3.5×10-3 S/cm

[1] S Fop et al. J. Am. Chem. Soc., 2016 138, 16764–16769.
[2] S Fop et al. Nat. Mater., 2020 19, 752–757.
[3] M Yashima et al. Nat. Comm., 2021, 12, 556.



私たちはこの内、特に高い伝導度を示すBa7Nb4MoO20系材料に注目し、発見者である東京工業大学の八島正知教授らの研究グループと共同で材料開発を行っています。図2はBa7Nb4MoO20系新材料のイオン伝導度です。特徴の一つに活性化エネルギーが非常に低く、中低温域で高い伝導度を示す点があります。この温度域ではSOFCで実用化されているYSZや既知の酸化物イオン伝導体と比較しても高い伝導度であり、世界最高クラスの酸化物イオン伝導体であると言えます。

図2 Ba7Nb4MoO20系新材料のイオン伝導度

高純度化学研究所の取り組み

高い伝導度を示すBa7Nb4MoO20系材料に着目し、周辺組成の材料探索を行っています。
図3は新たに発見したBa7M4-xM’1+xO20+x/2酸化物(MM’は異なる金属元素)の伝導度です。YSZやBa7Nb4MoO20系材料よりさらに高い伝導度を達成しました。また、加湿空気下では伝導度が向上することからプロトン伝導が示唆され、酸化物イオン-プロトン混合伝導体であることを発見しました。

この研究成果をまとめたものを日本セラミックス協会2021年年会で発表しました。
講演タイトル:2J05 新規酸化物イオン-プロトン混合伝導性Ba7Nb4MoO20関連材料の発見




a49_SOFC fig3.jpg
図3 Ba7M4-xM’1+xO20+x/2のイオン伝導度



図4は弊社で合成したBa7Nb4MoO20系新材料です。合成法を改良することで再現性良く安価・簡便に合成する手法を開発しました。  

 

図4 合成したBa7Nb4MoO20系新材料

また、Ba7Nb4MoO20系新材料を用いた新しいSOFCの開発も行っています。特徴である中低温域(300~600℃)での高い酸化物イオン伝導度により、低温動作可能なSOFCの実現を目指しています。図5はBa7Nb4MoO20系新材料で作製した薄板円板状試料です。これに電極を成膜しSOFCコインセルを作製します。

図4 SOFCコインセル用 薄板円板状試料

技術担当者より一言

Ba7Nb4MoO20系材料の高い酸化物イオン伝導性は最近発見されたものであり、周辺組成の材料探索にも大きな可能性を秘めています。周期表を眺めながら次はどの元素を入れてみようかと考える時間はとてもわくわくします。将来的に燃料電池などへの適用を目指し、今後も材料開発に取り組んでいきます。

 






八島先生より一言

東京工業大学・理学院・化学系・八島研の学生達とスタッフの活躍により、新物質探索、結晶構造解析とイオン伝導性の評価という基礎的な研究が実を結び、Ba7Nb4MoO20系新材料を発見できました。発見の経緯はプレスリリース*をご覧ください。Ba7Nb4MoO20系化合物は、低温側で酸化ビスマスのような従来の最も高い酸化物イオン伝導体よりも高い伝導度と広い酸素分圧範囲の電解質領域と高い相安定性が特徴の優れた材料です。さらに高純度化学研究所の優秀な技術者の方々のおかげで、関連材料の開発や大量生産も可能となり、今後の応用研究や商品化に期待しています。

*https://www.titech.ac.jp/news/2021/048839.html

 




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