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先端研究のウラに高純度あり

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先端研究のウラに高純度あり

時には私たちの生活が変わってしまうような最先端の研究のウラに、高純度化学研究所の存在があります。今回は「PdCoO2」を用いた先端研究のご紹介と、この材料合成にまつわる当社技術者の苦労話をお送りします。

研究概要

東北大学金属材料研究所の原田尚之助教、伊藤俊技術職員、塚﨑敦教授らの研究グループは、パラジウムとコバルトからなる金属酸化物(PdCoO2)と酸化ガリウム(Ga2O3;注1)を原子レベルで接合し、350℃の高温で7桁以上のオン/オフ比を示す、高温動作可能な整流素子(ダイオード)を開発しました。

高い耐環境性を持つこの新しい酸化物ダイオードは、様々な環境で動作を求められるIoT向けセンサーやパワーデバイスへの応用が期待されます。

成果の内容

PdCoO2は酸化物にも関わらず、金、銀、銅などの単体金属に匹敵する高い電気伝導性を示します(図1)。さらに、酸化物ならではの高い熱安定性と、pH=0の強酸やpH=14の強アルカリにも溶けない優れた化学耐性を持ちます。

図1. 様々な物質の室温電気伝導率

研究グループは、PdCoO2とβ-Ga2O3の界面を原子レベルで制御できること(図2)を見いだして、ショットキー接合の半導体特性を評価しました。この界面には、PdCoO2のPd+と[CoO2]-が交互に積層した層状構造に由来して、電気双極子が形成されます。これにより、従来の限界だった1.4 eVを大きく超える、1.8 eVの高いショットキー障壁が形成されました。この高いショットキー障壁によって、350℃の高温で7桁以上のオン/オフ比のダイオード動作を実証しました。

図2. 酸化物高温ダイオードの結晶構造と界面の電子顕微鏡像(左上). 動作温度350℃での電流密度-電圧(J-V)特性(赤線). イオン性酸化物を用いた分極界面形成により高温動作が実現.

注1 酸化ガリウム(Ga2O3
約5.0 eVの大きなバンドギャップを有し、量産に適した溶融法でバルク結晶を作製できることから、次世代のパワーデバイス向け半導体材料として有望視されている。実用化に向けて各国で研究が進められている。

“Highly conductive PdCoO2 ultrathin films for transparent electrodes” APL Materials 6, 046107 (2018); https://doi.org/10.1063/1.5027579

“Electric dipole effect in PdCoO2/β-Ga2O3 Schottky diodes for high-temperature operation” Science Advances 5, eaax5733 (2019); http://doi.org/10.1126/sciadv.aax5733

謝辞:図および提供は東北大学原田尚之助教よりご提供いただきました。ありがとうございました。

開発担当より PdCoO2製造に携わって

東北大学の原田先生よりPdCoO2ターゲットの引き合いを頂戴し、製造を担当しました。PdCoO2はPdO + CoO → PdCoO2のような一般的な固相反応では得られないことが先行研究で分かっていたので、製法の検討を行い、当社としてはかなり特殊な方法で合成を行うことになりました。

初回の試験は反応だけで1週間ほどの日数を要し、前後の工程を合わせると多くの日数を費やし、過去に私が担当した製品の中でも、特に時間のかかるものでした。

さらに、原料は貴金属であるPd化合物で、とても高価なため何度もトライができません。反応操作を失敗してしまうと、原料が失活して使えなくなる懸念もあったので、細心の注意と、慎重な反応操作が要求されました。

このようなプレッシャーのかかる中で材料の試作開発を行いましたが、1回目の試作品では、X線回折をとると、構造のことなる相が多く検出され・・・泣きそうになりました。

それでもあきらめずに、この分析結果を検証し、異相が出現する要因を推測し、合成条件を修正し再トライを行いました。2回目の試作で見事に単一相のものが得られたのですが、検討して採用した合成方法は、徐々に結晶を成長させる方法をとったため、反応後には金属光沢のある六角形板状のきれいな結晶として得られ、非常に喜んだことを覚えています。

苦労が多くプレッシャーのかかる仕事でしたが、その分、大きな達成感がありました。

話はこれだけで終わらずに、先生より材料を更に「高純度化」してほしいとのお話をいただきました。1回目に合成したものは、純度が99%ほどで、含まれる不純物には原材料由来のものと製造工程で混入するものがありました。より高い純度の原料を使用し、それに伴い合成方法も再検討し、使用する治具類にも注意して合成を行い、結果的に純度が99.99%まで向上させることに成功しました。

当社が関わった材料を用いた研究が、素晴らしい研究成果に繋がったとのことで、担当者としてとても嬉しく思います。(柴田)

営業担当の一言

お問合せ当初、どのような目的で使用するのかわかりませんでしたが、研究のお手伝いができ光栄に思いました。原田先生には当社で苦労しているときにご相談に乗っていただき、条件をすり合わせしながら課題をクリアしました。高純度の材料の御要望もあり、当社名に恥じない様、無事お応えすることができました。この材料を広く知っていただき、様々な分野で使用検討されれば幸いです。夢が広がります。(翠簾野)

原田先生から一言

現場の苦労話など興味深く読ませて頂きました。PdCoO2などデラフォサイト型金属の薄膜研究に、他の研究者の方が参入して下さるのは大歓迎です。

原田尚之助教ご略歴
所属 東北大学 金属材料研究所
2011年3月 東京大学工学系研究科 応用化学専攻 博士(工学)
2011年4月 東京大学物性研究所 特任研究員
2013年4月 マックスプランク固体研究所 研究員
2015年4月 東北大学 金属材料研究所 助教

研究分野
 酸化物エレクトロニクス、薄膜デバイス



写真の掲載に関してはご本人の承諾を得ています

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