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先端研究のウラに高純度あり その4 -超伝導材料-

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先端研究のウラに高純度あり その4 -超伝導材料-

時には私たちの生活が変わってしまうような最先端の研究のウラに、高純度化学研究所の存在があります。今回は「超伝導研究」のご紹介と、この材料に携わる当社技術者のお話をお送りします。

超電導とは

超電導(超伝導)(英: superconductivity)とは、オランダの物理学者ヘイケ・カメルリング・オンネスにより発見された。「金属や化合物などを非常に低い温度まで冷却した時に、電気抵抗がゼロになる現象」のことです。

物質に電流が流れる際、電気抵抗があると、電気的な摩擦により一部が熱になり放出され、エネルギーの損失になります。 超電導状態では電気抵抗がないので、発熱によるエネルギーの損失が起こりません。超伝導の状態下では、電流は永遠に流れ続けることができます。

この現象の発現と同時に、マイスナー効果が観察されます。

マイスナ―効果とは、永久電流の磁場が、外部磁場に重なり合って超伝導体内部の正味の磁束密度をゼロにする現象となります。外部磁場がない状態で超伝導物質を冷却し、超伝導状態になってから外部磁場を加え始めると、磁場は超伝導体の内部に侵入しません。

マイスナー状態にある超伝導体に永久磁石を近づけると、内部に磁場を侵入させまいと、 超伝導体が永久磁石から逃げようとする力が働きます。

この2つの現象「超電導状態」「マイスナ―効果」が現れるときの温度を超伝導転移温度、臨界温度Tc (Critical Temperature)と呼ばれます。この臨界温度を出来るだけ高く(室温程度)の物質を得ることは、この分野の重要な研究目標になっています。

今回は、神戸大学 内野隆司先生の研究室で進められている超伝導に関するご研究を紹介します。

先生の研究紹介

我々の研究室では,材料の微細構造,界面状態制御が新物性発現の鍵になると考え,研究を展開しています。最近の研究で,MgO(絶縁体)の中にMgB2(超伝導体)をフラクタル的に分散させると(図1参照)超伝導近接効果が階層的にあらわれ,MgB2の体積分率が16%程度であっても系全体でマイスナー効果が観測されることがわかりました(図2参照)[1]。超伝導の担い手であるクーパー対は本来,超伝導体であるMgB2中にしか存在しません。したがって,常伝導相を含む系全体でマイスナー効果を発現させるには,このクーパー対の位相情報を常伝導体を介して減衰させることなく伝達する必要があります。その際に重要となる要因が,MgB2のフラクタル的分布と,MgB2-MgO界面の原子レベルでの平坦性です。

図1. (a)Mg/MgO/MgB2 SPS焼結体のXRDパターンとリートベルト解析の結果.(b)SPS焼結体表面のFESEM/EDX元素マッピングの結果.青:Mg,緑:O; 赤:B.

図2. Mg/MgO/MgB2 SPS焼結体の(a)電気抵抗率ρの温度依存性と (b)磁化率χ(4πχ)の印加磁場10 Oeでの磁場冷却(FC)およびゼロ磁場冷却(ZFC)下での温度依存性.

今回の試料は多結晶体が凝集してできたものですが,焼結体でクリーンな界面を実現させるには,パルス通電焼結(SPS)による短時間の高温焼結が有効です。今回,高純度化学研究所の焼結サービスを活用し,理想的な結晶界面を有する超伝導複合材料を作製することができました。さらに,SPS焼結により,緻密なバルク体を得ることができますので,電気伝導度,磁化率,比熱などの物性測定も精度よく,定量的に行うことが可能となり,研究がさらに進展しました。今後は,今回の結果を礎に,超伝導複合材料の新機能材料としての可能性をさらに開拓してゆきたいと考えています。

*フラクタル:空間や図形の一部分を構成する形と、全体を構成する形が似ていること。樹木や雲、海岸線などの自然界にある複雑な形状で見られることが多い。

[1] T. Uchino, N. Teramachi, R. Matsuzaki, E. Tsushima, S. Fujii, Y. Seto, K. Takahashi, T. Mori, Y. Adachi, Y. Nagashima, Y. Sakaguchi, K.i Ohishi, A. Koda, T., and H. Ohta, Proximity coupling of superconducting nanograins with fractal distributions. Phys. Rev. B 101 035146 (2020).

当社への依頼内容

この研究を進めるための試料作製のご依頼を頂きました。粉末サンプルをバルク化(塊状)にしないと、特性評価の時に測定できないパラメータがあるそうです。研究室内でもいろいろと試したそうですが、うまく固まらずお困りの時に、当社メールマガジンで紹介のSPSの受託焼結に興味を持たれ、ご相談を受けました。

技術担当者より一言

弊社では様々な材料を扱ってきましたが、MgOがマトリックスに含まれるという珍しい超電導材料であり、先生のお話を聞いて、久方ぶりにすごい素材と直感的に感じたのを鮮明に覚えています。弊社からは、今回のご依頼目的と素材の物性から、高圧短時間で加圧焼結させれば粒成長を抑え 粉末特性を保ったままバルク化できると考え、パルス通電焼結(SPS)でのバルク化を提案させていただきました。

パルス通電焼結はプレス圧力を加えた材料に、パルス電流を流すことで自ら発熱し、その熱で焼結するメカニズムを利用しています。電気炉やホットプレスなどを用いた通常の焼結より短時間で焼結できることから、粒成長が抑制しやすく、1日で数多く熱処理できることが特徴です。

長年培ったスパッタリングターゲットの製造実績、知見、装置を活かし、受託溶解、焼結サービスの拡充に力を入れております。お客様の目的と素材にあった、最適なご提案を使命として活動しておりますので、「こんなものも頼めるのかなあ」と思ったら是非当社までお気軽にお問合せください!(Unno)

営業担当者より一言

先生方と当社技術者との懸け橋が営業の役割と考え、日夜励んでいますが、時代のニーズが高い先生方のご研究の一旦を担わせていただき、特性評価でいい結果が出たと伺った時には、心が躍ります。

また今回内野先生には、物理学の専門誌としては、権威あるPhys. Rev. Bの謝辞欄に、弊社名を掲載頂きました。本当に光栄です。これからも材料の未知なる可能性の解明のお手伝いを是非させていただきたい所存です。(Hamada)

内野先生より一言

SPS焼結を行うにあたっては、印加する圧力・電流・昇温速度など様々なパラメータを制御する必要があります。今回の、高純度化学研究所の技術者の方々の豊富な知識と経験による迅速な条件出しのおかげで、理想的な材料を短期間で作製していただくことができました。また、コロナ禍のもと、打ち合わせもままならない中、リモート会議などを活用して頻繁に情報交換していただけたことも、有益であったと思います。

関連製品・サービスのご紹介

受託焼結

大気焼成、ホットプレス(HP)焼成、加圧焼成、放電プラズマ(SPS)焼成、そして、熱間等方圧加圧(HIP)焼成といった焼結技術でセラミックスを製造しています。豊富な原料合成技術や粉砕・造粒技術との組み合わせて最適な焼結方法・製品のご提案をいたします。
https://www.kojundo.co.jp/material/contract_service/sintering.html

立ち合いや、依頼頂いた材料の焼結状況のWeb中継のご依頼なども受け付けております。

超伝導研究用材料

超伝導には基本的な物質であるYBCを始め、各種研究材料を揃えています。

CVD材料

Y (C11H19O2)3 トリス(ジピバロイルメタナト)イットリウム
https://www.kojundo.net/category/YY006/YYR06GB_ASK.html

Ba (C11H19O2)2 ビス(ジピバロイルメタナト)バリウム
https://www.kojundo.net/category/BA007/BAR11GB_ASK.html

Cu(C11H19O2)2 ビス(ジピバロイルメタナト)
https://www.kojundo.net/category/CU007/CUR01GB_ASK.html

CSD材料

超伝導の研究にはMOD法(有機酸塩を塗布して熱分解する方法)が盛んです。

是非ご相談ください。

CSD材料はこちら

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